建設業は、経済発展の基盤を支える重要な産業である一方、労働災害が発生しやすい業界としても知られています。高所作業や重機の使用など、危険を伴う作業が日常的に行われるため、安全対策が欠かせません。
この記事では、建設業における労働災害の発生状況を解説し、主な原因とその対策について掘り下げていきます。労働者の安全を確保し、より安全な作業環境を実現するためのポイントを学びましょう。
労働災害とは?
労働者が業務中に被る怪我や疾病、さらには死亡事故など、労働に関連する災害全般を指します。それには、高所からの転落や墜落、重機の操作中の事故、物体の落下、機械の故障による事故、化学物質による中毒などが含まれます。
労働災害は、労働者個人だけでなく、その家族や所属する企業、さらには社会全体に多大な影響を与えるため、発生を防ぐための取り組みが非常に重要です。労働災害を防ぐためには、安全管理体制の整備や徹底した安全教育、適切な作業環境の維持が求められます。労働災害が発生すると、被害を受けた労働者の治療や休業補償、さらに再発防止のための対策が必要となり、企業にとっても大きな負担となります。そのような理由から、労働災害の予防と対策は、労働安全衛生の分野において最も重要な課題の一つとされています。
建設業における労働災害
建設業では高所作業や特殊作業が多いことから、墜落・転落事故が頻繁に発生しています。それらの災害を防ぐために、労働安全衛生法に基づく「第14次労働災害防止計画」(令和5年度~令和9年度)において、重点事項の一つに「建設業における墜落・転落災害等の防止」が位置づけられ、取り組みが行われています。
その計画の目標は、死亡者数を令和4年と比較して、令和9年までに15%以上減少させることです。
発生状況
令和4年には、建設業全体で281人の死亡災害が報告されており、そのうち116人が墜落・転落災害によるものでした。また、同年には14,539人の死傷災害が発生し、そのうち4,594人が墜落・転落災害によるものです。
業種別の死亡災害をみた場合、建設業者は全体の36%にあたり、最も多い数字になっています。
特に、建設現場では屋根や屋上の端、開口部からの墜落・転落が約3割を占め、次いで足場からの墜落・転落が約2割を占めています。さらに、木造建設工事での、はりやけたからの墜落・転落災害、はしごや脚立からの墜落・転落災害も一定数報告されています。
参考:
建設工事における労働災害防止対策 | 厚生労働省
建設業における労働災害の発生原因
労働災害の発生原因は「物的要因」と「人的要因」に分けられます。
物的要因
現場で使用される機械や設備、工具などの不備や欠陥、そして作業環境そのものの問題が含まれます。
例えば、足場の設置が不十分であったり、老朽化している場合、労働者が足場から墜落するリスクが高まります。また、機械や重機の定期的な点検や整備が行われていない場合、故障や誤作動が発生しやすく、それが重大な事故につながることがあります。
さらに、現場の整理整頓が不十分であることも、物的要因による労働災害の一因です。資材や工具が散乱していると、労働者がそれにつまずいて転倒するリスクが高まります。また、適切な保護具や安全設備の欠如も、災害のリスクを増大させます。
人的要因
人的要因も大きく関与しています。人的要因とは、労働者の行動や意識、スキルの不足など、人に起因する要素を指します。
まず、労働者の不注意や油断が災害の大きな原因となります。例えば、高所作業中に安全帯を正しく装着しなかったり、足場の確認を怠ったりすることは、墜落や転落のリスクを高めます。また、作業手順を無視したり、定められた安全規則を守らなかったりすることも事故を引き起こしやすくします。
労働者の経験不足や技術の欠如も重要な要因です。新入社員や研修が不十分な作業員は、機械の操作や現場の安全ルールについて十分に理解していない場合があります。それにより、誤った操作や判断ミスが発生し、重大な事故につながることがあります。
建設業での労働災害対策
建設業における労働災害対策を「基本事項」「安全対策」「労働衛生・化学物質対策」に分けて解説します。
基本事項
まず挙げられるのは建設業労働安全衛生マネジメントシステム(COHSMS)の普及と活用です。建設業の特性を考慮した上で、企業全体で労働安全衛生を管理し、継続的に改善していくための枠組みになります。具体的には、リスクアセスメントの実施、労働者の安全衛生意識の向上、適切な安全対策の実行などが含まれます。
また安全衛生教育も重要です。安全衛生教育は、労働者一人ひとりが安全意識を高め、適切な行動を取るための基盤となります。社員に基本的な安全ルールを徹底的に教育し、定期的な研修や訓練を通じて全ての労働者が最新の安全対策を理解し実践できるようにすることが必要です。現場での実践的な訓練を行うことで、実際の作業環境に即した安全対策を習得することができます。
さらに、各種ガイドライン等に基づく安全衛生対策の推進も欠かせません。政府や業界団体が策定する安全衛生ガイドラインは、現場での具体的な安全対策を示す重要な指針です。
安全対策
足場やはしごからの墜落・転落防止対策として、安全点検の強化や床面の広いローリングタワー(移動式足場)や作業台などの使用、ヘルメットの着用を義務付けるなどが挙げられます。墜落制止用器具の適切な使用も不可欠で、安全帯やハーネスの正しい装着と使用方法の教育も重要です。
荷役災害防止対策では、クレーンやフォークリフトの操作訓練が必要です。転倒災害の防止対策には、現場の整理整頓や手すりの設置、滑りやすい場所の排除などが求められます。交通労働災害防止対策としては、現場周辺の交通管理と交通誘導員の安全確保が重要です。車両系建設機械の運転中の墜落・転落防止には、シートベルトの着用や安全装置の設置が必要です。
また、専門工事業者や高年齢労働者、外国人労働者、一人親方等への安全衛生支援が不可欠です。自然災害の復旧作業では特別な教育が求められ、伐木作業では適切な手順と防護具の使用が重要になります。
安全な建設機械の普及や建設工事関係者間の情報共有も大切です。建設職人基本法に基づく職人の技能向上と安全確保の推進も重要な対策です。
労働衛生・化学物質対策
労働衛生および化学物質対策も重要です。熱中症対策としては、適切な休憩、冷却設備の設置が求められます。じん肺予防対策では、呼吸用保護具の適正な選択と使用が必要です。騒音障害防止対策では、騒音レベルの測定や、適切な聴覚保護具の選択と使用、健康診断の実施などが必要になります。
またメンタルヘルス対策としては、カウンセリングや定期的なチェックを行う必要があります。剥離剤や化学物質による健康障害防止対策としては、防護具の着用と適切な取り扱いが重要です。石綿健康障害予防対策では、事前調査を行った上で防護措置を講じます。
さらに、危険有害な作業を請け負わせる一人親方等には、安全教育と保護具の使用を促すことが必要です。それらの対策を徹底することで、労働者の安全と健康を守り、安全な作業環境を実現できます。
参考:
建設工事における労働災害防止対策 | 厚生労働省
建設業の労働災害対策は重要
建設業における労働災害は依然として多く発生しており、その主な原因は物的要因と人的要因に分けられます。足場の不備や機械の故障といった物的要因、そして作業員の不注意や経験不足といった人的要因により、事故が発生しています。
それらの災害を防ぐためには、建設業労働安全衛生マネジメントシステムの普及や、安全衛生教育の推進、ガイドラインに基づく対策の徹底が重要です。
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